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M&A(あなたの会社のお値段は?)
<M&Aとは何か>
M&Aということばを良く耳にするようになった。M&Aというと外資系企業や大企業だけが使うもので、中小企業には関係ないと思われがちだ。しかし、出口の見えない難問が山積する昨今、M&Aは中小企業にとっても重要な経営戦略の一つになりうると考えておくべきである。
そもそもM&Aとは何を意味する言葉だろうか。M&AとはMerger
& Acquisitionの頭文字を取った言葉で、Mergerは合併、Acquisitionは取得を意味する。日本語では「企業の合併・買収」と訳されている。
M&Aは欧米においては非常に一般的は事業拡大手法の一つである。例えば、GEの元CEOジャック・ウェルチがとった戦略はM&Aを抜きにしては語れない。GEは1990年以降の10年間だけでも約2兆円規模の事業を売却し、5兆円を超える規模の事業を買収した。 そして、GEは1981年から1999年までの18年間に、売上を約4倍に伸ばし企業価値を37倍にしたのである。
<日本では馴染みが薄かったM&A>
ところが、このM&Aは日本企業、特に日本の中小企業においては馴染みが薄かった。それには幾つかの理由があるが、一番大きなものは米国と日本での「企業」というものの捉まえかたの違いである。アメリカで「企業はだれのものか」と聞くと、ほぼ間違いなく「株主のものだ」という答えが返ってくる。アメリカでは「企業は株主のものであり、経営者は企業の株主価値を高めるために働く」というのが一般的な価値感である。
では、日本で「企業はだれのものか」と尋ねるとどのような答えが返ってくるだろうか?アメリカのように「株主のものだ」と明言する人は少ない。日本人にとっては、企業は物ではなく人の集まりであって、それは売ったり買ったりするものではないという意識が強いのではないかと思う。
私自身、企業の売り買いには抵抗感がある。会社というものは、一人一人の人間が生活の糧を得る場であり、自分を成長させる場であり、またお客様との関係の中でお客様を幸せにする商品やサービスを提供する場であると考えている。企業は物として切り売りされるものではなく、一人一人の人間の営みに深く係わっている「生きもの」のような気がするのである。
<中小企業でもM&Aが戦略として必要な時代になった>
企業に対する上記のような日本人感情を持っていながら、今回私はM&Aをテーマに選んだ。それは、中小企業においても、M&Aをこれからの事業戦略の重要な選択肢の一つに考えておくべきではないかと思うからである。それは次のような理由からだ。
第一番目は規模の優位性ということだ。昨今多くの企業がコストダウンに知恵と汗を搾っている。中小企業は比較的給料が低く固定費が少ないのでのコスト競争力が高いと言われる。しかし、固定費の圧縮には限界がある。トータルの価格に大きな影響を与えるのはむしろ仕入額の方である。業態によっても違うが、売上高に対する仕入高の比は概ね6割から8割である。
例えば、仕入高が売上高の8割となる企業を例にとると、残りの2割にあたる販売管理費部分しかコストをコントロールできない。そしてこの販売管理費の最も大きな部分は人権費であり、既にほとんどの中小企業がギリギリの所まで人権費を切り詰めている。ところが、M&Aで会社の規模を大きくし、規模のメリットで仕入高を1割抑えることが出きれば、コスト競争力は大幅に高まるのである。
第二番目は企業連合や提携の難しさである。規模のメリットを活かすのであれば、何も合併しなくても、企業連合や提携によってそれを補えばいいとの意見もある。しかし、企業連合や提携という手法は、言葉の美しさとは裏腹に、なかなかうまく機能しないという問題がある。
小学校で、「この作業を行うのに、一人で2日かかるとすれば、二人で行うと何日かかるでしょうか」という問題が出る。小学校での答えは1日だが、意思決定を伴うビジネス社会での仕事だと答えは4日以上になるという場合が多々ある。関係者が多くなるとすぐに意見や利害が対立し、定まった方向にエネルギーが集中しないからである。
第三番目は後継者の問題である。今多くの中小企業が後継者問題を抱えている。中小企業の業績は、ほとんどがトップひとりの能力で決まってしまう。中小企業では組織で仕事をしているのではなく、トップが組織を引っ張っていると言った方がいい場合が多い。
トップ不在は中小企業にとって致命的である。そして、中小企業の後継者問題が難しいのは、その会社の優秀な番頭さんや部長さんといった実務家が必ずしもトップを継げるわけではないということである。適当なトップがいない場合には、取締役陣がチームで企業運営をするなどというようなことを考えず、信頼のおけるトップに事業運営そのものを任せた方がいい場合もある。
以上のような理由から、これからは中小企業にとってもM&Aが事業運営上の重要な選択肢になってゆくだろう。それはM&Aで事業を拡大していくという意味もあるし、M&Aを積極的に受け入れる立場で事業を存続していくという意味合いもある。
<会社の値段の決め方>
それでは、このM&Aを行う上で必ず理解しておかなければならない「会社の値段の決め方」についてお話ししよう。企業の価値を評価することをバリュエーションという。バリュー(Value=価値)を決めるとこうことだ。このバリュエーションの方法には大きく分けて3つの手法がある。資産価値評価法と市場価値評価法と動態的価値評価法である。簡単に言えば「今の資産をお金に変えてみましょう」、「他の会社の事例と比較して値段を決めましょう」、「将来その会社が儲ける利益を現在の価値に直してみましょう」という3つの方法である。
会社の値段というと、現在保有している建物や設備などの不動産の価値で計算したくなるが、企業価値といった場合は、「いくらすばらしい設備を持っていてもそれが利益を生まないなら価値がない」という考え方が基本である。従い、資産価値評価法は事業を継続する企業の価値算定という目的からはあまり意味がない計算方法であると言える。
市場価値評価法とは、類似会社や類似M&A案件での企業価値とその会社の利益や売上との比を使って、対象とする会社の企業価値を算出する方法である。類似業種類似規模の会社でM&Aが行われ、その会社の企業価値が100億円だったとする。そして、その会社の最近3年間の平均売上が100億円、平均利益が10億円だとすると、その会社の企業価値と売上の比は1:1、企業価値と利益の比は10:1となる。この比を用いて、あなたの会社の平均売上や平均利益から、あなたの会社の企業価値を算出するというものである。
この市場価値評価法において、専門家がEBIT(イービット)やEBITDA(イービッダ)というような難しい言葉を使ってくるだろう。しかし心配はご無用。EBIT(Earning
before Interest and Tax)とは税引き前金利支払い前の営業利益のことで、EBITDA(Earning
before Interest, Tax, Depreciation and Amortization)は、上記EBITに減価償却費や引当金繰入額などの現金が出てゆかない費用項目を加えた額、つまり手元現金に近いものだと覚えておけば大きな問題はない。
昨今バリュエーションと言われれば、収益還元(DCF:
Discounted Cash Flow)方式が代表選手である。これは事業活動を行った上で手元に残るキャッシュ(フリーキャッシュフロー)から企業価値を算出する方法である。
難しそうに聞こえるが、要点は二つ、「フリーキャッシュフロー」と「ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)」という考え方を理解すればよいだけである。フリーキャッシュフローとは、上述の通り「事業活動を行った上で手元に残る、自由に使えるお金」ということだ。式で書くと(フリーキャッシュフロー)=(営業利益+減価償却費―設備投資費―運転資金増減額―税金)となる。式を見ればわかる通り手元に残っている現金のことだ。
もう一つ理解しなければならないのがディスカウント・キャッシュフローという考え方である。これは、例えば100万円を年利10%(今の世では考えられない金利だが・・・)で預金すると1年後には110万円となる。ということは1年後の100万円というのは今の100万円とは価値が違う。今91万円持っていて、金利10%で預金すれば一年後には約100万円になる。つまり1年後の100万円というのは今の価値に直せば91万円なのだ。
正確に言えばもっと複雑なのだが、細かいことはほっといて、上記の2点を押さえれば、DCF法による企業価値算定法の基本的な考え方は理解できたと言える。つまり企業の価値とは、事業を継続していった上で手元に残ってゆく現金の総和である。そして、その総和はそのまま足せばいいのではなく、将来のお金の価値を現在の価値に直して割り引いて計算しておく、ただそれだけのことなのだ。
これで企業の値段を計算する方法の基本は理解して頂けたと思う。実際M&Aの交渉を行う場合は、上記のいくつかの手法を組み合わせて企業の値段を決めるのが一般的である。また、DCF法においては、事業が生み出す将来のキャッシュフローを正確に推定することが難しいので、どうしても過去及び現在の実績が大きくものをいうことになる。
つまり、もしあなたの会社が最近何年間も利益が出ておらず、将来的にも損益が大きく改善することを明確に説得できないなら、現在いくら立派な設備や不動産を持っておられようとも、残念ながらあなたの会社に価値はないと計算されるのである。
以上
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