4.管理職教育

管理職教育が全社の人材開発のカギを握っている

 

優秀なリーダーには共通した特徴がある。どこの会社でも優秀なリーダーと言われる人は同じような行動をとっている。仕事の質はだれがやるかによって決まる。優秀なリーダーが率いるチームのアウトプットは高いし部下も成長する。集合教育だけで社員の人材開発などできない。社員の能力は、日々の仕事を通して上司がどのような指導をするかにかかっている。全社の人材開発の成否は管理職層の質で決まる。

 

■優秀なリーダーに共通すること

私が行う管理職研修では、受講生である管理職の皆さんに今まで出会った素敵な上司の特徴と書いてもらうことから始める。答えはどの会場でもほぼ同じで、その特徴は大きく二つのグループの分けられる。一つ目は「方向性がはっきりしている」「目標が明確」「信念がある」「決断力がある」などのビジョンに関わる行動である。二つ目は「話しを聞いてくれる」「相談に乗ってくれる」「一緒に考えてくれる」「思い遣りがある」などのコミュニケーションに関わる行動だ。

経営学の分野ではリーダーシップに関する研究は膨大なものがある。リーダーシップ研究の一分野に行動理論があるが、行動理論の著名な先生方の考えも上記の研修生の結果とほぼ同じで、大きくは「課題関連の行動」と「人間関連の行動」という二つの軸にまとめられる。優れたリーダーはこれら二つの要素を持ち合わせている人だと言ってほぼ間違いないだろう。
 

■課題関連の行動とは何か

人を引っ張って行く上で大切なのがビジョンや目標である。私の友人が就職関連業界の社長をしている。彼は5年後のIPOを明確に社員に宣言している。そして、その目標を社員と共有している。こういう会社は勢いがいい。

しかし、中小企業に入り込んで社長や幹部社員の方の話しを聞いていると、会社のビジョンや進むべき方向性、目標といったことは語らず、「大変だ、危機意識を持て、やる気をだせ、自分で考えろ」というようなことばかりおっしゃる。これでは従業員はどこに向かってどのくらい頑張ればいいのか皆目分からず、やる気が出るはずがない。

ただ、この課題関連の行動はビジョンや目標を示すことだけを言っているのではない。感覚的に言えば「ドーンと通ったものを持っている」といったイメージだ。優秀なリーダーは、「ぶれない軸」というか「ゆるぎない価値観」を持っている。受講生の言葉で言えば、「情熱を持っている」「行動力がある」「率先垂範」「対外的な交渉力」といった言葉で説明され、「いざという時に頼りになる」といった感じである。

 

■人間関連の行動とは何か

「夢」や「ゆるぎない信念」を持っていれば人はついてくるかと言えば、そうばかりではない。人がついてくるリーダーは、人間に対する細やかな感受性を持っている。前述の就職関連業界の社長がそうだ。IPOという大きな目標を持っていると共に社員を家族以上に大切にしている。

彼と一緒に彼の会社のPRビデオを作ったことがある。その企画を若い部下に任せるので、私は彼に「部下の教育という観点は分かるが、これは社長の仕事だ」と言った。すると、彼は声を大にして、「お前にとっては俺の部下はどうでもいいかもしれんが、俺にとっては俺以上に大切なんだ!」と言われた。返す言葉もない迫力だった。更に付け加えて言えば、彼のIPOも彼のためではない。彼の会社は多くの方に少しずつ出資してもらって作られた会社だ。気持ちの優しい彼が出資者の皆さんのためにIPOを考えているのは想像に難くない。

成功している中小企業の社長はほぼ間違いなく優しい人だ。一見厳しい人であっても心の奥底は本当に優しい。やる気のない部下を叱りつけると同時に、どうしてやる気になっていないのか、部下の所に下りていって部下の目線で部下の気持ちを推し図ろうとする。心の根底に、自分に関係する全ての人を幸せにしてあげたいという気持ちが伝わってくる。

「人間関連の行動」はコミュニケーションのスキルやノウハウではない。「相手を中心に考える」とか「思い遣り」とかといった深い人間理解のことであり、突き詰めていえば「人の心がつかめるかどうか」ということなのだ。

 

■叱れない管理職

全社の人材開発を考える時、管理職の存在は極めて重要なポイントだ。集合教育で出来ることは気づきを与えることかスキルやノウハウを提供することでしかない。従業員の能力ややる気を高めようと思えば、日頃の仕事を通して適切な指導を繰り返してゆかねばならない。その役割を担うのが管理職層である。マネジメント能力の高い管理職が人材を育成してくれるのだ。

「最近の管理職は部下を叱れない」という言葉をよく聞く。部下と仲良くしてゆくことは悪いことではない。しかし、人間には強みと弱みがあり、自分の弱点は人から指摘されないと分からない場合が多い。更に、我々ビジネスパーソンはどんな仕事をしていても、顧客の期待以上の仕事をすることや利益を出すことを求められている。その為には部下を叱りつけなければならない場面は必ず出てくる。

部下を叱れないのは、上司自身が自分の仕事に対する厳しさとか信念を持っていないか、部下を育ててやろうという優しさを持っていないか、もしくはその両方を持っていないからだ。

全社の人材開発は日々の仕事を通して行われるものである。講義を聴いて人間が磨かれるわけがない。行動を伴わない知識は意味がない。従業員の行動を変える人材開発のカギは管理職が握っている。

以上